20130914

こんな気持ちのままで

一昨年 依頼があって書いた作文・・・ 結局 先方さんの企画がポシャって お蔵入り?になった原稿! ファイルの整理をしていたら 出てきたので。。。

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僕がまだ、プロサイクリストとして肩で風を切って歩いていた頃、もう15年以上前になる・・・ ちょうどそのころ、実業団の選手から相談を受けた、「もっと強くなりたい。勝つために、どのような練習したらいいのか」って。僕が指導を始めたきっかけでもあった。
選手本人があまりにも真剣だったので、指導に必要な費用や時間など、細かく記した契約書を作成し、仕事として請け負うことになった。

当時の僕は 本当に威張っていた・・・。 その頃の自転車ロードレース界は、現在のプロカテゴリーに属する実業団選手も、会社勤めをしながらレースに出場している環境。 会社から練習時間や、機材や遠征費などのサポート、支援を受けてチームに所属する選手を中心に、日本の自転車界は動いていた。 まだ「プロ」と言うカテゴリーが存在していない時代。その中で僕は、先輩選手たちを追い越して、プロの自転車選手として企業とプロ契約を交わし、プロアスリートとしての生活を、既に始めていた。

プロとしての生活は大きく変わった。 住むところ、クルマ、持ち物や身に着ける物など・・・。 サラリーマン選手時代とは大きく変わった。 もちろんレースで転戦するための機材や運搬、サポート、合宿や海外遠征なども、全てプロスポーツ選手としての待遇である。僕は、輸入車を乗り回して、レース会場でも一番目立つところにクルマをとめて、我が物顔でプロアスリートを楽しんでいた。

プレイヤーを続けながら コーチの仕事をするようになり数年が経った頃、知人から、「都内でオープンするスポーツジムがあるんだけど、そこでパーソナルトレーナーをしてみないか」って、声をかけてもらった。 これまでは、アスリートのパーソナルコーチがメインで指導をしてきたけど、ジムで指導すると言う事は、アスリートではない一般の方々へ向けての指導も行っていくって事になる。 もちろん自信はあったので、ジムとは、ためらうことなく契約を交した。

プロのプレイヤーとして培ってきた事、勉強してきた事など、どんなパーソナルトレーナーにも負けないと思っていた。 また、コーチングスキルや指導でも、理論とディティールを納得できるまで伝える自信もあった。
しかし、新規に入会するジムのメンバーの皆さんからは、思ったほど僕に声は掛からなくて、こちらから話しかけても、なかなかトレーニングの依頼には繋がらずにいた。 もちろん、継続して受けて頂いているクライアントもいたけれど、思ったほど増えてはいかなかった。 自身の中で 『なんでクライアントが増えない?』と 自問自答していた。 そんな時でも、同時期に契約していた別なパーソナルトレーナーは、確実にクライアントを増やし続けていた・・・。 僕は、多くの焦りと、恥ずかしさを感じはじめていた。
『何が違うんだ?』 僕は振り返って、自分自身と、確実にクライアントを獲得しているパーソナルトレーナーを比べてみた。 答えは簡単に見つけることができた。 僕は、アスリートとしてはプロだけど、パーソナルトレーナーとしては、アマチュアであった。
僕は”思い上がって”いた。 「プロのアスリートが教える」。 そんな大きな驕りを持っていた。

これまで指導してきた競技選手であれば、「勝ちたい」とか 「強くなりたい」といった強い信念のもと、強い口調での指導でも、頭を叩いたって、指導を受けてくれた。 でも、フィットネスジムに運んでくる方々は、強い信念は持っていても、モチベーションが上がらない時もあったり、仕事で疲れていたり、ストレスで頭の中がいっぱいの時だってある。 そんな時に、偉そうに「教えてあげる」なんて思っているトレーナーと、一緒にトレーニングをしたいとは、思わない。 当たり前の事であった。

修行のし直しだ。

契約していたスポーツジムとは、ちょうど1年の契約を終了して、更新せずジムと解約。 アメリカへ渡った。 もちろん、サイクリングの練習のためにではあったが、本場アメリカで、もう一度、コーチングスキルを学び直そうと思ったからでもある。

郊外の田舎町にアパートを借りて、練習に明け暮れる日々を淡々と続け、夕方からは、近くのスポーツジムに通った。 さすがアメリカ。 ジムの中にはパーソナルトレーナーとセッションをしている風景があちらこちらで・・・。 トレーナーの体格も、確かに大きなカラダのトレーナーもいるけど、僕とさほど変わらないトレーナーもいる。 僕は毎日のように、コンディショニング中心のストレッチをしにジムに通った。
毎日ジムに行っていると、ジムのスタッフや、パーソナルトレーナーとも顔見知りになって、いろいろとコミュニケーションをとるようになった。
僕がこのジムに通う、もう1つの目的は、パーソナルトレーナーとの交流。 毎日セッションの予約が入っているパーソナルトレーナーや、決まった曜日だけセッションにやって来るトレーナー、また、1セッションだけのためにやって来るトレーナーもいて・・・ 様々だ。 その中でも 毎日ジムに来ているトレーナーと仲良くなって話をするようになった。 必然的に彼のセッションを目にする機会も多くなり、これまでの自分のセッションと比較してみるようになった。
 彼のセッションを見ていると、クライアントが替わる度に、まるで人間が変わったかのように対応が変わる。 声のトーンや話のスピード、もちろんセッションの内容も・・・。
その彼も、トライアスロンの選手をしているという。 昼間は練習して、夕刻からジムで指導をしているそうだ。 本人はセミプロと言っていたが、活動内容を聞くと、ほとんどプロの選手であった。 そのプロのアスリートが、クライアントとの指導では、本当にきめ細かく対応して、クライアントの言葉や表情、もちろん身体の動きなんかも細かく観察して、モチベーションをはかり、効果と満足感を提供していた。 超一流のホストになりきっている。 これがプロのパーソナルトレーナーなんだと、僕は、胸を打たれた。

奢ることなく、へつらう事もなく、愛想笑いや余計な話題も出さず会話して、長年セッションを重ねている方や、まだ最近始めたばかりの方とも、一定の距離感で接してセッションをしていた。

僕は日本で、何を勘違いしていたんだろうと、本当に自分を恥じた。 そうなんです「主役は僕ではなく、クライアントなんだ」と。

数ヶ月滞在していたアメリカから帰国後、もう一度、今度はプロのパーソナルトレーナーとして仕切り直しだ。 自身でダメだと思ったことは、二度としない。 その場で改善する。 失敗した事は繰り返さない。 良いと思ったこともその場で改善する。 そして、プロのアスリートとしてのマインドはしっかりと持ったまま、プロフェッショナルに徹する。 パーソナルトレーナーに徹する。 ただこれだけ。

サイクリングのコーチとしては、これまで多くのキャリアを積む事ができた。 パーソナルトレーナーとしても同様のつもりではあった。 しかし、サイクリングは自転車と言う括りの中だけ。 パーソナルトレーナーと言う肩書きになると、括りと言う枠がなくなる。 様々な種目のアスリート、ビジネスマン、ダイエットやリハビリテーション・・・。 あらゆる分野の方達とのセッションができることこそが、プロのパーソナルトレーナーである。

「サイクリングのコーチしかできないパーソナルトレーナー」では、パーソナルトレーナーとして通用しない。 そう、「パーソナルトレーナー」であって、「専門分野がサイクリング」と言えるようなトレーナーでないと意味がない・・・ そう思っていた。

そして2007年、シーズンを終えたばかりの11月に、フリーのパーソナルトレーナーが多く所属、在籍するスポーツジムの門を叩いた。 自分が、どこまでパーソナルトレーナーとして通用するか試すためだ。

まあ、考えてみればプロって仕事はみんな同じだと思う。 サイクリストであっても、パーソナルトレーナーであっても、プロ意識とマインドは、まったく同じだと思う。 プロのアスリートは、レースや試合に、ただ勝つためだけに勝負しているわけではない。 もちろん1番になること、勝つ事が目的なんだけど、どうやって勝つか、どういう勝ち方で勝負するか、勝つためのプロセスこそが重要で・・・。 どうやって勝ちにいくかの、その勝負、レースを見て、「おもしろかった」「また観たい」。 そんなレースや試合を観ている方たちのこころを動かす、これこそがプロの勝負って事だ。
 パーソナルトレーナーだって同じだと思う。 セッションの内容次第で、「またトレーニングしたい」「たのしかった」・・・。 そんな思いを抱いてもらえるようなセッションができてこそプロのパーソナルトレーナーだ。 常に、もてなしの気持ちでセッションに望むことがプロセスって事になる。

現在、これから・・・。 パーソナルトレーナーと言うプロの仕事は、より一層社会的にも認識され、確立された肩書になる。 そうなると、トレーナー自身は、全ての面での品質の高いクオリティーが必要になってくる。 言語や教養、敬意、礼節・・・。 クライアントからの要望も細かく、難しくなり、ご年配やエグゼクティブな方々など、あらゆるカテゴリーの方々に対応できるスキルが必要になってくる。 キャリアを積み、学び続けることが、僕たちパーソナルトレーナーの仕事ってことを、戒めて行かなければならない。

これから、どこへ向かうのだろうか。 自分でもわからないけど・・・ プロってやつに拘って生きて行きたい。 ただそれだけかな